相続土地国庫帰属制度
2025/02/12
相続土地国庫帰属の概要
相続土地国庫帰属制度を紹介いたします。
令和5年4月27日から開始した制度で、相続した土地を国に引き取ってもらうことが出来るようになりました。現在、業務の関係で勉強しておりまして、簡単に概要を紹介させていただきます。
これまでは、相続財産に土地があっても、その土地だけを相続しないという選択ができませんでした。
- 相続放棄はできない?→相続放棄では、不要な土地だけを選択して、相続しないということができません。相続の放棄者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。つまり積極的財産も、(債務等の)消極的財産も、どちらも承継しなかったことになります(権利がないということ)。
- 限定承認はできない?→限定承認は相続財産に負債がある場合に有効ですが、土地は(たとえ使い勝手がものすごく悪いとしても、、)負債ではなく、プラスの資産ですから、不要な土地の対策には使えません。
このように、これまでは相続した土地を完全に手放す方法がなかったのですが、本制度を用いると、「要件を満たせば」土地を手放すことができるようになりました。
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」に要件その他が規定されております。
相続土地国庫帰属制度の対象者
制度の対象者は、相続又は遺贈によって土地を取得した人です。
注意点がいくつかあります
- 共有の土地の場合は、共有者全員で申請を行う必要があります。
- 購入した土地や生前贈与された土地は対象外です
- 施行前に相続した土地も対象となります
引き取ることができない土地
申請をすることができないケース
A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
承認を受けることができないケース
A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
法務省の資料によれば、令和6年12月31日現在での、これまでの却下件数51件、不承認件数46件とのことで、注意を要することがわかります。(法務省:相続土地国庫帰属制度の統計)。以下引用。
「却下」
- 11件:現に通路の用に供されている土地(施行令第2条第1号)に該当した
- 1件:現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地(施行令第2条第4号)に該当した
- 7件:境界が明らかでない土地(法第2条第3項第5号)に該当した
- 5件:承認申請が申請の権限を有しない者の申請(法第4条第1項第1号)に該当した
- 31件:法第3条第1項及び施行規則第3条各号に定める添付書類の提出がなかった(法第4条第1項第2号)
「不承認件数」
- 4件:崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの(法第5条第1項第1号)に該当した
- 20件:土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地(法第5条第1項第2号)に該当した
- 1件:除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地(法第5条第1項第3号)に該当した
- 2件:民法上の通行権利が現に妨げられている土地(施行令第4条第2項第1号)に該当した
- 1件:所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(施行令第4条第2項第2号)に該当した
- 1件:災害の危険により、土地や土地周辺の人、財産に被害を生じさせるおそれを防止するための措置が必要な土地(施行令第4条第3項第1号)に該当した
- 19件:国による追加の整備が必要な森林(施行令第4条第3項第3号)に該当した
- 5件:国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地(施行令第4条第3項第4号)に該当した
かかる費用
- 審査手数料
土地一筆につき14,000円 - 10年分の土地管理費相当額
条件によって異なりますが、一筆につき20万円が基本となります。
法務書に、負担金の算定金額が図示されています。
相続土地国庫帰属制度の負担金
有効な使い方
上記のように、一筆につき20万円+審査手数料、という金額が発生します。この金額は面積に関わらず一定(市街化区域又は用途地域の宅地、一部の市街化区域又は農用地区域の田畑、森林の場合は面積に応じて算定)となっていますが、実際は面積が大きくなるとある程度の金額になります。
本制度を活用するためには、却下要件と不承認要件に当てはまらないように、要件を満たす必要があります。また、書類作成のために現地調査が必要ですので、申請者には相当な時間と労力が必要となるので、専門家に依頼するのが現実的だと思われます。
また、審査完了までの期間は標準で8ヶ月とされているので、半年〜1年程度はかかる、と捉えておいた方がよさそうです。
最後までお読みいただきありがとうございました。